私たちに蜂蜜という恩恵をもたらしてくれるミツバチですが、その女王蜂の生態については一般的にあまり知られていません。
「ミツバチの女王蜂は、どんな役割を持って生きているのだろう?」 「普通のミツバチと女王蜂には、どんな違いがあるの?」
など、様々な疑問を持たれている方も多いでしょう。
実はミツバチの女王蜂は、外見的に大きいことや、栄養の違いからくる生命力の強さ、産卵をする役割を担っているなど、他のミツバチとは明確な違いがあります。
それでは、その女王蜂の役割や生態、女王蜂・働き蜂・オス蜂のそれぞれの特徴、そして女王蜂とその他の蜂の違いについて解説していきましょう。
目次
ミツバチの女王蜂は大家族のお母さん
女王蜂は、ミツバチの大集団の中で母親で中心的な存在です。そのため、他の蜂と比べて、体型はもちろん、生殖機能を備えていたり一生の過ごし方も違うなどの特徴があります。
それでは、女王蜂の見た目の特徴や、特別な一生の過ごし方について見ていきましょう。
ミツバチの女王蜂の特徴
ミツバチの女王蜂は、働き蜂に比べて体型が大きく、色が違うなどの特徴があります。そのため、女王蜂がどのような見た目なのか知識があれば、すぐに働き蜂と女王蜂を見分けることができるでしょう。
さらに女王蜂は、日本に生息するミツバチの主な種類であるニホンミツバチとセイヨウミツバチによっても、その特徴が変わってきます。
ニホンミツバチ
ニホンミツバチの女王蜂は、大きいもので体長が17mmになります。体型が大きい働き蜂でも、13mm程度までしか成長しないため、それと比較すると女王蜂は大きいです。
さらに、体の模様も違っており、働き蜂は黄色と黒の縞模様が特徴的なのに対して、女王蜂は全体的に黒っぽい色をしています。
セイヨウミツバチ
セイヨウミツバチの女王蜂は、ニホンミツバチよりもさらに体格が良く、大きいもので20mmになる個体も存在しています。
セイヨウミツバチの働き蜂の体型は、14mm程度でニホンミツバチとあまり変わりません。その点を踏まえて比較すると、セイヨウミツバチの女王蜂はニホンミツバチの女王蜂に比べて、特に大きいと言えるでしょう。
体の色はニホンミツバチの女王蜂と同様に、全体的に黒い色をしています。ですので、蜂特有の黄色と黒のしましま模様ははっきりとは見られません。
ミツバチの女王蜂の一生
女王蜂は特別な蜂なので、その一生の過ごし方も他の蜂とは全く違っています。
どのような一生を過ごしているのかについて、ニホンミツバチの生態を例にして、その一生の流れを以下にまとめてみました。
- 王台について
王台は、女王蜂の候補が育てられるスペースのことです。このスペースは、他の働き蜂の幼虫が育つ部屋よりも大きく作られているため、王台はまさしく女王蜂に用意された部屋だと言えるでしょう。
女王蜂候補の卵は、この王台に産み落とされます。そしてこの部屋で、餌を与えられながら成長していくのです。
- 成長にかかる日数
女王蜂は他の働き蜂と違って、成長する日数は短いのが特徴です。
まず卵から孵化するまでの期間は、オスもメスも問わず、3日程度かかります。その次に幼虫から蛹の状態へ移行していくのですが、この間の成長は働き蜂が6日程度かかるのに対し、女王蜂は5日程度と少し短いです。
そして蛹から成虫へ成長する際も、働き蜂が12日かかるのに対して、女王蜂は7日ほどしかかかりません。そのため、かなり早いスピードで成長するのが、ニホンミツバチの女王蜂の特徴の1つです。
- 女王蜂が食べる餌
女王蜂に成長する幼虫が食べる餌は、一般的にも広く知られているローヤルゼリーです。
ローヤルゼリーにはとても豊富な栄養とともに、幼若ホルモンと呼ばれる成分が含まれています。幼若ホルモンの効果は、それを摂取した蜂の成長を促進させることです。この幼若ホルモンによって、女王蜂は成長が促進され、成虫になるまでの時間も早くなります。
- 産む卵の数と蜂の種類の比率
繁殖期になると、女王蜂は毎日1,000個以上、多いときで2,000個以上の卵を産みます。これだけの出産能力があるため、繁殖期のピークの時点では、巣の中の蜂の数がおよそ2万匹、環境が特に良い場合は、なんと6万匹になることもあるようです。
なお、1匹の女王蜂から生まれてくる卵の内、新女王蜂にとして育てられる卵は、環境にもよりますが1年で100個に満たないほどしかありません。また、オス蜂の割合は巣の蜂の10%程度であるため、2万匹の群に対して2,000〜3,000匹程度しか存在していません。
これらの点から、働き蜂の数が産卵される卵の中で一番多くを占めており、女王蜂やオス蜂の割合はかなり少ないのも特筆するべき点でしょう。
- 女王蜂の越冬
冬になると女王蜂は産卵や育児をストップします。これは、厳しい冬を乗り越えるために、不要なエネルギー消費を抑える必要があるからです。
働き蜂も冬は外に出ず、巣の中でまとまり、おしくらまんじゅうのようになって暖を取ります。女王蜂も、この働き蜂が作る暖かい環境に守られ、冬を越すことができるのです。
- 分蜂について
無事に冬を越して春になり、その巣で新しい女王蜂が誕生すると、ニホンミツバチの旧女王蜂はその群の半分程の働き蜂を連れて巣から出て行きます。これが分蜂(ぶんぽう)と呼ばれる現象です。外に出て行った旧女王蜂の群は、新たに巣を作り、そこで活動を再開します。
ミツバチの世界では、1つの巣に女王蜂は1匹というルールがあるため、基本的に旧女王蜂と新女王蜂は共存することができません。それゆえに、分蜂という現象が起こります。
なお、ニホンミツバチの分蜂の時期は地域によって変わりますが、関東から中国地方にかけての地域は、主に4月上旬が分蜂の起こりやすいタイミングです。
- 女王蜂の寿命
ニホンミツバチの女王蜂の寿命は、その個体にもよりますが2年から3年と言われています。働き蜂の寿命が約30日〜140日であることに比べると、かなり長生きだと言えるでしょう。
寿命が近くなった女王蜂は、産卵数が減るなどの変化が見られます。働き蜂はそれを察知し、次の女王蜂を育てるための王台(交換王台)を作り始めるため、この王台作りが見られ始めると女王蜂の寿命が近い可能性が高いです。
女王蜂の一生は、このようなライフサイクルによって構成されています。
群を構成する他の蜂の生態
ミツバチの群は、女王蜂の他に働き蜂とオス蜂によって構成されています。女王蜂の生態をより深く知る上では、その他の役割を持つ蜂の生態を理解しておくことも重要です。
この項目では、働き蜂とオス蜂の役割や生活について解説していきます。
働き蜂〜大家族の管理人〜
働き蜂は、全てメスです。しかし、ここで疑問として浮かぶのは、同じメスである女王蜂と働き蜂の違いではないでしょうか。
それでは、女王蜂と明確に違うポイントを押さえながら、働き蜂の特徴を確認していきましょう。
- 成長にかかる日数
働き蜂が産卵されてから成虫になるまでには、おおよそ21日程度の日数が必要です。女王蜂は成虫になるまでの日数が、16日程度ですので、それに比べると働き蜂の成長は遅いと言えるでしょう。
その成長段階の期間の内訳としては、卵から孵化して幼虫になるまでが3日程、幼虫から蛹になるまでが6日程、蛹から大人の働き蜂になるまでが12日程となっています。
- 餌
働き蜂の餌は、ローヤルゼリーと花粉です。卵から孵化してから3日間程度は、女王蜂と同じく働き蜂にもローヤルゼリーが与えられます。しかし、そのままずっとローヤルゼリーが与えられるわけではありません。
3日が過ぎた頃になると、働き蜂にはローヤルゼリーに代わって花粉が餌として与えられるようになります。一方、女王蜂は成虫になるまでローヤルゼリーが与えられ続けるため、この餌の違いが、女王蜂と働き蜂の違いを作り出すのです。
- 成虫になってからの役割・生活
成虫になった働き蜂の役割は、ミツバチの群れを管理するために必要なこと全般です。具体的な役割の例としては、花のみつや花粉といった餌を集める行為から、幼虫の世話、巣の中の掃除があります。
働き蜂の役割は年功序列制であり、若い働き蜂は巣の中の仕事を行い、寿命が近くなった働き蜂は外部に餌の確保に出て行くという風に変化していくのが特徴です。
女王蜂は産卵などの生殖行為をする役割を担い、それに対して働き蜂は基本的に生殖行為以外全てを担っていると言っても良いでしょう。(例外的に、女王蜂がいなくなった時、働き蜂が産卵の役割を担うケースもあります。)
- 寿命
働き蜂の寿命はとても短く、春から秋にかけての暖かい期間は、30日程です。しかし、冬になると巣を温めるために多くの働き蜂が必要になるため、その期間の働き蜂の寿命は140日程に伸びる特性もあります。
女王蜂は2年から3年の寿命があるため、女王蜂と比べると働き蜂はとても短命です。その短い寿命の中で、働き蜂は群のために必死になって働いてくれます。
産卵も働き蜂が管理!?驚きのその仕組みとは
女王蜂が出産する卵の数や性別は、実は働き蜂によって管理されています。
その仕組みとしては、働き蜂が産卵するべき卵の数だけ巣房(幼虫を育てる穴)を作り、必要とする種類の蜂に合わせて巣の種類を変えるというものです。
働き蜂の数が必要と考えれば5mm程の標準的な大きさの巣房を作り、雄が必要な場合はそれより大きな6mm程の巣房を、新たな女王蜂が必要と考えれば王台を作ります。その指示に合わせて、女王蜂も産卵を行うのです。
以上のように、一見すると女王蜂が群を主導しているように見えますが、実際は女王蜂の行動も含めて全てが働き蜂によって管理されています。
オス蜂〜息子たちの生活〜
メスが大多数を占めるミツバチの社会の中に、一部ですがオス蜂も存在しています。そのオス蜂達の生態と役割は、以下の通りです。
- 成長にかかる日数
オス蜂が成虫になるまでに必要な日数は、24日程です。ミツバチの群の中では、一番成長に時間がかかります。
その成長の内訳としては、卵から孵化するまでに3日程、幼虫から蛹になるまでに6日程、蛹から成虫になるまでに15日程です。また、生殖行為ができるようになるまでには、成虫になってから更に14日程の期間が必要となります。
- 餌
オス蜂が食べる主な餌は、はちみつです。このはちみつは働き蜂からもらうものであり、自ら外に出て採取してくるわけではありません。
さらに、オス蜂は働き蜂に餌を食べさせてもらうという行動の特徴もあります。
- 成虫になってからの役割・生活
成虫になったオス蜂の唯一の役割であるのが、女王蜂との交尾です。性的に成熟したオス蜂は、女王蜂と交尾をするために、巣の外に出て行きます。
女王蜂は交尾をせずとも、オスの蜂は産むことができますが、メスの蜂を産むためには、オス蜂との交尾による有性生殖が必要です。そのため、メスの蜂を増やして群の維持をしていくためには、交尾をするオス蜂の存在が欠かせません。
ただ、オス蜂は交尾以外のことは全くしないため、働き蜂が行っているような巣の掃除から餌の確保といった仕事を担うことはないです。
- 寿命
オス蜂の寿命を決定するのは、女王蜂との交尾です。雄蜂は交尾をした時点で、そのまま死んでしまいます。そのため、交尾をする時がオス蜂にとって寿命を全うする瞬間なのです。
また、交尾ができないオス蜂も、一定の期間を過ぎると働き蜂によって巣から放り出されます。
これらの出来事が起こるのは、オス蜂が性的に成熟した後ですので、そこから逆算するとオス蜂の寿命はおおよそ30日ほどと考えられるでしょう。
まとめ
ミツバチの女王蜂は繁殖のために産卵をする、重要な役割を担っています。そして寿命も長く、体型も大きいといった、働き蜂やオス蜂と比べて特別な存在感があるのも女王蜂の特徴です。
そして女王蜂は、群を管理する働き蜂や、交尾を行うオス蜂の存在によって、その役割を全うできているのも特筆するべき点でしょう。
それでは、この記事のポイントとして押さえておいて欲しいのは、以下の3点です。
- 女王蜂はローヤルゼリーによって特別に育てられたメスの蜂であり、同じメスの働き蜂に比べて大きく、寿命も数年と長くなる。
- 女王蜂の役割は産卵のみであり、群を維持していくための活動や管理は全て働き蜂が行っている。
- オス蜂の役割は女王蜂と交尾をするだけであり、交尾をした時点でその役割を全うして死亡してしまう。
これらのポイントを押さえて、ミツバチの女王蜂の役割に関する理解を深めてくださいね!