ハチにもさまざまな種類がいて、種類によってエサにしているものや、性格・攻撃性などが異なります。
ハチは種類に限らず花の蜜をエサにしていると思っている人も多いでしょう。ですが実は、全てのハチが花の蜜だけを栄養源にしているわけではないのです。
たとえば、ハチの中でも獰猛な性格の持ち主であるスズメバチは、ミツバチを襲ってエサにすることもあるのです。
ミツバチとスズメバチを比べてみると体の大きさも違うので、襲われたミツバチがかわいそうだと思ってしまいますよね。
ここでは、スズメバチがミツバチを襲うときの状況や、それぞれの体の構造の違いについて詳しく見ていきたいと思います。
目次
同じハチに襲われる!?スズメバチとミツバチの戦い
スズメバチがミツバチやミツバチの巣を襲うことは事実です。ここで
「同じハチなのに、なぜスズメバチはミツバチを襲うのだろう?」
と疑問を持つ方もいらっしゃるのではないでしょうか?
その答えは、スズメバチとミツバチの生態、とくに食餌の違いにあります。
ここでは、スズメバチのミツバチの食餌の違いや、ミツバチの対抗手段について紹介していきます。
スズメバチとミツバチの食性の違い
ハチ=花の蜜を吸っている、というイメージを持っている人は多いのではないでしょうか。
しかし、一口にハチと言っても多種多様で、どのハチも同じような食性を持っているわけではないのです。
それでは、ミツバチとスズメバチの食性の違いを詳しく見てみましょう。
【ミツバチ】
ミツバチはその名の由来になっているように、花の蜜を集めてハチミツを作り、これをエサとしています。
また、糖を主成分とするハチミツだけでは補えない、タンパク質やビタミンなどを花粉を食べることで摂取しています。
女王蜂と女王蜂候補の幼虫だけが食べられるローヤルゼリーも、働き蜂が花粉などから作っています。
近年話題にもなっているローヤルゼリーは、豊富なタンパク質と、糖・ビタミン・ミネラルなどの必要な栄養素が含まれる、いわばミツバチの母乳です。
このようにミツバチは成虫も幼虫も、花の蜜・花粉とそれを加工したものをエサとして食べているのですね。
【スズメバチ】
一方でスズメバチの場合は、成虫と幼虫でエサが大きく異なります。
スズメバチの成虫のエサは、自分たちの巣の幼虫が分泌する栄養液がメインです。
春先の女王蜂しかいない時期などには、花の蜜や樹液を食べることもあります。
では、栄養液を分泌する幼虫は何をエサにしているのでしょう?じつはスズメバチの幼虫のエサは、主に昆虫類なのです。
働きバチは幼虫を育てるために、昆虫を捕獲します。その後、捕獲した昆虫を噛み砕いて肉団子にして巣へ持ち帰り、さらに小さく噛み砕いて幼虫たちに配るのです。
このスズメバチの成虫と幼虫の食餌の違いには、体の形が関係しています。
スズメバチは成虫になると、胸と腹の間(厳密には腹の途中)がとても細くくびれるため、固形物を食べることができなくなってしまうのです。
ミツバチとスズメバチは、同じハチでも食べているものはこんなに違うんですね。
ミツバチが自分たちのエサとして作るハチミツは、私たちも日常的に食べていますよね。
「全ての種類のハチが蜜を集め、ハチミツを作るの?」と疑問に思う方もいらっしゃるかと思いますが、ここまでで紹介したように、スズメバチはハチミツを作ることはありません。
養蜂が可能な温厚なミツバチがハチミツを作る能力を持っていたからこそ、私たちは甘くておいしいハチミツを食べることができるのですね。
ミツバチを襲うスズメバチ
スズメバチが幼虫のエサにするために襲う昆虫の中に、同じハチの仲間であるミツバチも含まれます。
スズメバチと一口に言ってもいろいろな種類がいますが、主にミツバチを襲うのはオオスズメバチやキイロスズメバチなどです。
スズメバチの中でも特に攻撃力が高い種類なので、自分より大きい昆虫でも襲うことがあるほどです。
ミツバチの襲い方は、スズメバチの種類によって異なります。
キイロスズメバチは、ミツバチの巣の周りに近づいてきて、1匹ずつミツバチを襲います。そして、捕獲されたミツバチは肉団子にされて、キイロスズメバチの幼虫のエサになります。
スズメバチの中でも、最も凶暴性が高いのがオオスズメバチですが、オオスズメバチはミツバチの巣の中に侵入してきて、ミツバチの成虫だけでなく幼虫や蛹も襲います。
場合によってはミツバチの巣を全滅させるほどの危険性を持ち合わせているので、特に注意が必要なスズメバチだと言えます。
ミツバチの対抗手段
スズメバチに狙われてしまうミツバチですが、攻撃を受けているだけではありません。自分たちよりも強いスズメバチに、対抗する手段を持っています。
ニホンミツバチの場合
日本にいるミツバチの1種がニホンミツバチです。ニホンミツバチがスズメバチに襲われてしまったときの対策としては、熱殺蜂球があります。
スズメバチがニホンミツバチの巣に近づくと、ニホンミツバチの働きバチはまず羽音で威嚇をします。このときの働きバチはとても息が合っていて、その羽音はまるで海の波の音のように聞こえます。
しかし、その威嚇を無視してスズメバチがさらに巣に近づくと、ニホンミツバチの働きバチは群でスズメバチを囲んで熱を発し、中に閉じ込めたスズメバチを10分もかけずに蒸し殺します。これが熱殺蜂球と呼ばれています。
ニホンミツバチはスズメバチより熱に強く、スズメバチだけを殺すことができるのです。
このときに、最初にスズメバチに飛びついたミツバチの数匹は、スズメバチにかみ殺されてしまいます。
しかし、スズメバチを殺さなければもっと大きな被害が出るので、ニホンミツバチは身を挺して巣や仲間を守るのです。
熱殺蜂球を作る働きバチについても研究が進められていて、最初にスズメバチに向かっていく働きバチの決定などについても、明らかになりつつあります。
多くの種類のハチが、自分や巣を守るために毒針を使って攻撃を仕掛けてきます。
しかしミツバチは、敵を毒針で刺すと自分が死んでしまう可能性があるので、毒針を使った攻撃ではなく、集団で対抗する方法を選んだのですね。
つぎは、セイヨウミツバチの場合について見てみましょう。
セイヨウミツバチの場合
同じミツバチでもセイヨウミツバチは、ニホンミツバチのように熱殺蜂球でスズメバチを退治することができません。セイヨウミツバチはニホンミツバチほど熱に強くないためです。
しかしセイヨウミツバチの中にも、ニホンミツバチとは別のスズメバチ撃退法を持つ種がいることが分かっています。
そのセイヨウミツバチの巣にスズメバチが入り込んだ場合、セイヨウミツバチは集団でスズメバチの腹部を取り囲んで圧迫することでスズメバチの呼吸を阻害し、およそ1時間かけてスズメバチを窒息死させるのです。
この方法は「窒息スクラム(asphyxia-balling)」と名付けられています。
ところが残念なことに、この方法では日本にいるオオスズメバチには対抗できません。
日本に移入されたセイヨウミツバチが野生化しないのは、このようにオオスズメバチへの対抗手段を持たないためと考えられています。
また、スズメバチに襲われてしまうと単体で攻撃を仕掛けるセイヨウミツバチも多く、その場合セイヨウミツバチは簡単にスズメバチに殺されてしまいます。
そのため、セイヨウミツバチの巣がスズメバチに襲われた場合、ニホンミツバチよりも大きな被害を受けることが多いのです。
同じハチでもこんなに違う!スズメバチとミツバチ
ハチは種類によって、体格や性格などさまざまな点が異なります。食性も違うミツバチとスズメバチですが、他にはどんな違いがあるのでしょうか。
体の構造の違い
まず、体の構造や体格が大きく違います。
スズメバチにもいくつか種類がありますが、最も体の大きいオオスズメバチは、体長が20〜40mmもあります。
一方でミツバチは、体長13〜16mmくらいと、オオスズメバチの半分以下です。
また、毒性も異なります。
スズメバチの毒は別名『毒のカクテル』と呼ばれるほど、多様な成分を含み、強い毒性を持っています。
一方でミツバチの毒の毒性は低いことが分かっています。
しかもミツバチの毒針は返しが多く、1度毒針を刺すと自身が死んでしまう可能性が高いので、よほどことがない限り人や敵を刺すことはありません。
刺された場合の違い
毒性の強さも異なるので、刺されたときの状況も違いが出てきます。
スズメバチに刺されたときは、刺された場所が赤く腫れあがったり、アナフィラキシーショックを引き起こす危険性が高くなったりします。
一方、ミツバチに刺された場合は、毒針にある返しによって毒針が皮膚に残る場合があるのが特徴です。
さらに、ミツバチに刺された場合も腫れや痛みといった症状が出てきますが、症状はスズメバチに刺された場合に比べ、ひどくならないことがほとんどです。
しかし、人によっては強い痛みや腫れが出たり、アナフィラキシーショックが出ることもあるので、注意が必要です。
まとめ
この記事のポイントとしておさえてほしいのは以下の3点です。
- ミツバチが花の蜜や花粉をエサにしているのに対し、スズメバチは昆虫を幼虫のエサにしており、ミツバチをも襲うことがある
- ミツバチの種類の1つであるニホンミツバチは、スズメバチに巣を襲われそうになると、スズメバチを集団で囲って蒸し殺すことができる
- スズメバチとミツバチは体型も違うが、毒針の形状や毒の強さも違う
ミツバチやスズメバチの習性を理解し、適した対策を取れるようにしましょう!